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ACL injury
前十字靭帯断裂
前十字靭帯は膝の中にある靭帯で、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)を繋いでいる非常に大きな靭帯です(Fig1)。
この靭帯には、大きく3つの役割があるとされています。
- 大腿骨に対して脛骨が前方に動くこと(前方変位)を抑制
- 大腿骨に対して脛骨が内側に捩れること(内旋)を抑制
- 大腿骨に対して脛骨が過剰に伸展すること(過伸展)を抑制
特に犬が歩行する際に重要になってくるのが、1番の前方変位です。
原因・症状
人での前十字靭帯断裂はスポーツ外傷や、転倒やスリップなどの外傷に起因するケースが大半を占めるとされています。犬での原因については研究が進められていますが、先ほどの脛骨の後傾角度(TPA:脛骨高平部角)が高いこと、遺伝的な素因、そして体重も含めた生活環境の要因など様々で、まだ十分に特定されているわけではありません。
- 急に脚を痛がって、挙げる様子(挙上)がある
- 脚を引きずって庇う様子がある
- 立ち上がりや動き出しの動作が緩慢
前十字靭帯損傷の多くは、いわゆる中高齢(早ければ5歳くらい)の犬が、普段の何気ない動きをした時に急に症状が出てくることがあり、上記の1のような症状で来院されるケースが多い印象があります。
この場合、様子見していると痛めた脚を再び脚を使い始めてくるケースがあります。これは靭帯が治った訳ではなく、切れた時の炎症が収まって、再び使用し始めていると言う状況です。靭帯が切れた膝は非常に不安定で、このままでは体重もかけにくく、半月板損傷も生じやすくなります。そして関節炎が非常に進行しやすくなり、結果的に徐々にまた脚を使わなくなります。適切な施設で、早期に診断と治療を実施していただくことが望ましいと思います。
治療(TPLO)
過去には、前十字靭帯の治療としてヒトと同様の靭帯再建術(関節内法)が用いられていました。しかし、犬では作成した靭帯が早期に切れること、緩んでしまうことで、合併症が非常に多く発生したため、現在では推奨されていません。
大腿骨と脛骨の間に人工の糸をかけて、脛骨が前方変位しないように制動をかける手術(関節外法、関節外制動術)があります(Fig5)。
この手術は比較的簡便な治療ですが、一定の効果が得られることと、特殊な医療機器を必要としないことから、実施されている施設も少なくありません。しかし、この手術では長期間の安静や膝関節の可動域の低下、人工糸の緩みや断裂、そして長期経過でも十分には脚の機能が回復しないことが報告されており、当院でも非常に特殊なケース(非常に高齢で手術時間を可能な限り短縮したいなど)を除き、提案することはありません。
当院では、前十字靭帯断裂/前十字靭帯部分断裂の症例に対しては脛骨高平部水平化骨切り術(TPLO)を第一選択として実施しています。この手術は1kg台の超小型犬から、60kgを超える超大型犬まで様々な体格の犬に適合するプレートが販売されており、実施可能です。TPLOは、脛骨が後傾している部分(脛骨高平部)に力が加わったさいに、脛骨全体が前方にスライドすることから(Fig3)、この脛骨高平部を地面に平行にする(正確には約6.5度とされています)ことで前方へのスライドが消失することを発見した外科医によって提唱されました(Fig6)。
TPLO術前
TPLO術後
現在、前十字靭帯損傷に対して実施されている手術の中で、TPLOが最も早く良好な経過が得られることから、この術式が世界中で選択されています。この手術は人工的に骨を骨折させ(骨切り)、切った骨同士を目的の形でプレート固定することから、整形外科手術に精通した施設や執刀医によって実施されることが推奨されます。手術に精通した外科医であれば、手術自体は30-60分程度で終了します。
術後~回復まで
麻酔の覚醒に大きな問題がなければ、朝からの手術であれば当日の夕方、お昼からの手術であれば翌日には退院可能です。
エリザベスカラーを装着し、傷口を保護することをお願いしています。傷口に問題がなければ、術後2週間で抜糸可能です。
術後1ヵ月間は室内の少し狭いスペースで安静に過ごして頂き、排泄の時だけ5-10分程度のリードを短く持ったお散歩を許可しています。
おおよそ術後2-3ヵ月で、術前と同じくらい体重をかけて歩くことが可能になるとされています。
当院のTPLOは、TPLOの執刀件数が300件を超える執刀医が手術を担当しています。
ご不安なことや疑問がありましたら、遠慮なくご質問ください。
Flow of Treatment
当院の診療の流れ
まずは、飼い主様から動物たちの症状や経過について詳しくお伺いいたします。いつから症状が現れたのか、どのような状況で悪化するのか、普段の様子との違いなど、できるだけ詳細な情報をお聞かせください。
問診内容に基づき、獣医師が動物たちを丁寧に診察いたします。
立っているときの姿勢、筋肉のつきかた、重心移動などを評価します。どの足をかばって歩いているのか、どんな風に歩いているのかを確認し、症状の原因を探ります。
必要に応じて、血液検査、レントゲン検査、関節液検査をなどの検査を行い、状態と原因の把握に努めます。
神経疾患や、骨折の詳細を把握するためにはCT/MRI検査をご提案することがあります。その場合は、当院からはYPC東京動物画像センター様での検査をご提案させて頂いております。
動物たちの負担を最小限に抑え、安全かつ効果的な治療を行います。投薬、理学療法、手術など、症状や病状に合わせた治療法を実施いたします。
治療後も、定期的な診察を行い、動物たちの状態を経過観察いたします。必要に応じて、検査を再実施したり、治療内容を調整したりすることもございます。また、自宅でのケア方法についてもアドバイスさせていただきます。