レッグ・カルべ・ペルテス病(LCPD)

早期の診断と治療が早期の運動機能の回復に繋がる疾患です。気になる場合はお早めにご相談を。

Legg–Calvé–Perthes disease

目次

レッグ・カルべ・ペルテス病
(LCPD 大腿骨頭無菌性壊死症)

この病気は、太ももの骨(大腿骨)の骨頭と呼ばれる部分が、感染を伴わずに壊死して破壊されてしまう病気です。

発症時期・傾向

時期:
成長期(6~12ヵ月齢)の犬に発生し、多くは10ヵ月齢前後に発症することが多いように思います。
『最近脚を痛がる』『脚を地面に着かなくなった』などの主訴で来院されるケースが多いです。

傾向:
遺伝的な背景は分かっていませんが、国内ではトイプードルでの遭遇率が高いように思います。その他にも、ヨークシャーテリア、ポメラニアン、パグなどでも発生があります。

※ 治療は大腿骨頭の切除をするか、人工関節に入れ替える手術の二択です

当院では基本的に大腿骨頭の切除を提案・実施しています。

原因について

(※写真は拡大できます)

太ももの骨・レントゲン写真による図説
Fig1:犬の大腿骨と大腿骨頭の位置

レッグ・カルべ・ペルテス病(LCPD)の原因は十分に解明されていない部分もありますが、大腿骨頭に流入する血流が減少することで生じるとされています(Fig1)。

成長期には成長板と呼ばれる、骨が成長する場所があります。これは体のほぼ全ての骨に2ヵ所以上ずつ存在しており、この大腿骨頭という場所にもあります(Fig2)。

骨が成長する場所「成長板」を指し示すレントゲン写真
Fig2:大腿骨頭と大転子の成長板

この場所への血流供給が減少したり、途絶えてしまうことで大腿骨頭が虚血と呼ばれる栄養不良の状態に陥ってしまいます。そうなると大腿骨頭は脆弱な状態に陥り、徐々に骨が腐ってしまう状態(壊死)になります(Fig3)。

大腿骨頭の正常な形と、LCPDによる変形時の対比を示すレントゲン写真
Fig3:正常な大腿骨頭と、変形した大腿骨頭。

症状・診断方法

多くの場合は、脚を痛がる様子、着地するのを嫌がる様子があるとの主訴で来院されます。月齢的に膝蓋骨内方脱臼(パテラ MPL)も症状が出てくる月齢なので、鑑別が非常に重要です。MPLだと思ったらLCPDだった、あるいはその逆だったということもあります。 

診断方法

診断方法は触診での痛みの確認と、レントゲン検査での骨頭の変形の確認をすることです。
ごくごく初期の場合にはレントゲン検査でも分からないことがある為、その場合はCT検査の実施を提案することがあります。

LCPDの治療

壊死した大腿骨頭は再生することはありません。
この壊死した大腿骨頭が存在しているだけで脚の機能を阻害するので、痛みの発生源である骨頭を切除するか、新しい人工物に入れ替えるしかありません。

再生医療で骨頭の血流を回復させるという研究もありましたが、臨床応用できるレベルの科学的根拠はありません。現在の獣医療では、骨頭を再生させることはできません。

大腿骨頭骨頸部切除術

大腿骨頭骨頸部切除術(FHNEやFHOと呼ばれます)を実施して、痛みの原因を除去します。当院では基本的にこの手術を提案、実施しています。

骨頭と骨頚部の骨切り位置を示すレントゲン写真
術前:骨頭と骨頚部の骨切り位置
骨頭と骨頚部の骨切り術後を写したレントゲン写真
術後:切除後の様子

メリット・デメリット

この手術の最大のメリットは、正確な切除ができれば再手術が不要であること、厳重な安静が基本的には必要ないことが挙げられます。 
そもそも骨頭を切除しても問題ないのか?と、ご質問をいただくことがありますが、脚を使用して日常生活を送ることは十分に可能です。 

デメリットとしては、正常な脚の70%程度までしか筋力が回復せず、後方への伸展や蹴り出しがやや弱いこと挙げられます。また、術後には積極的なリハビリテーションの実施が必須です。 

専門のリハビリテーション

私は整形外科疾患の診断と治療を専門にしており、リハビリテーションの分野の知識は十分ではありません。ある程度の過ごし方や留意点はお伝えできますが、機能回復を目的とした積極的なリハビリテーションの実施については、東高円寺の『D&C Physical Therapy 』の長坂先生に依頼しています。

長坂先生は、日本の獣医療におけるリハビリテーションの草分け的存在でありつつ、第一人者の一人です。受診して頂くことで、詳細な現状把握、現在の問題点、問題点のクリアの仕方、と順序立てて明確にして頂けます。
正確な手術ができれば、もちろん徐々に改善することが期待できますが、専門医の介入によって問題点が明確化し、驚くほど機能回復して、ご満足頂けた症例を数多く経験していますので、私としては犬と猫の専門のリハビリテーションを受ける事を強くお勧めしています。 

ご希望の方はご紹介させて頂きますので、お気軽にお申し付けください。 

股関節全置換術/THR

人工物に入れ替える手術は、股関節全置換術(THRやTHA)と呼ばれます。
THRは人工の寛骨臼、大腿骨頭、大腿骨ステムの3つのインプラントを使用して、股関節を全て人工物に入れ替える手術です。

人工物に入れ替える手術、という表現は外科的なダメージも非常に強い印象を持たれるかも知れませんが、傷口自体は小さく、術後に痛みや状態の悪化が起きやすいということもありません。熟練の執刀医であれば、傷口自体も非常に小さく済むようです。 

メリット・デメリット

この手術の最大のメリットは、正常な脚と同等の機能回復が見込めるという点です。中にはアジリティーなど、タイムを競うような大会で入賞できるようになるまで回復することが可能とのことです。また、術後には多くの場合はリハビリテーションが不要で、しっかりと機能すれば可動域の低下も最小限で済むこともメリットとして挙げられます。 

THRの最大のデメリットは再脱臼が生じる危険性があることです。取り付けた人工関節が10%程度の確率で再び外れてしまうと報告されています。再脱臼が生じた際には、必ず再手術を行い、人工関節の入れ替えか除去を行う必要があります。また、手術が比較的高額になることもデメリットの一つとして挙げられます。THRに使用するインプラントは国内では未承認のため、獣医師の個人輸入となります。円安の影響や原材料費の高騰もありますが、非常に精密に、クリーンに作られているインプラントのため、どうしても高額にならざるを得ません。 

難易度の高さ

現在、THRの手術は講習の受講だけではなく、執刀の認定が必要です。私はこの手術の講習を受講しましたが、執刀の認定を満たしていないため執刀できません。元の機能を100%戻してあげることは整形外科医として、非常に魅力的であると思いますが、同時に難易度の高い手術でもあり、執刀医や病院側にも求められるハードルの高い手術に思います。国内では数名が手術を実施しているようです。今後はもう少し執刀医が増えてくるかもしれません。 

早期の診断と治療が重要

このレッグ・カルべ・ペルテス病(LCPD)という病気は外科的な介入をしなければ、痛いまま過ごすことになり、遅くなればなるほど、機能回復も遅れてきます。

早期診断と早期治療が早期の運動機能の回復に繋がりますので、気になるオーナー様はお早めにご相談ください。 

Flow of Treatment

当院の診療の流れ

STEP
問診

まずは、飼い主様から動物たちの症状や経過について詳しくお伺いいたします。いつから症状が現れたのか、どのような状況で悪化するのか、普段の様子との違いなど、できるだけ詳細な情報をお聞かせください。

「犬と猫の整形外科病院」の問診
STEP
視診・歩行検査・触診

問診内容に基づき、獣医師が動物たちを丁寧に診察いたします。

立っているときの姿勢、筋肉のつきかた、重心移動などを評価します。どの足をかばって歩いているのか、どんな風に歩いているのかを確認し、症状の原因を探ります。

「犬と猫の整形外科病院」の院内
STEP
検査

必要に応じて、血液検査、レントゲン検査、関節液検査をなどの検査を行い、状態と原因の把握に努めます。

「犬と猫の整形外科病院」の検査
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その他の検査

神経疾患や、骨折の詳細を把握するためにはCT/MRI検査をご提案することがあります。その場合は、当院からはYPC東京動物画像センター様での検査をご提案させて頂いております。

「犬と猫の整形外科病院」の検査において、必要に応じてYPC東京動物画像センターでのCT/MRI検査をご提案させていただいております
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診断と治療計画のご提案

検査結果を総合的に分析し、動物たちの病状を診断いたします。診断結果に基づき、最適な治療計画を飼い主様にご提案いたします。治療内容、治療期間、費用、手術が必要な場合はそのリスクや成功率などについて、わかりやすく丁寧にご説明いたします。

診察・手術のご予約が取れた方はこちらをご確認ください

診察・術前の注意事項(PDF)

術後の注意事項   (PDF)

STEP
治療開始

動物たちの負担を最小限に抑え、安全かつ効果的な治療を行います。投薬、理学療法、手術など、症状や病状に合わせた治療法を実施いたします。

動物たちの負担を抑えた治療を行います
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経過観察とサポート

治療後も、定期的な診察を行い、動物たちの状態を経過観察いたします。必要に応じて、検査を再実施したり、治療内容を調整したりすることもございます。また、自宅でのケア方法についてもアドバイスさせていただきます。

「犬と猫の整形外科病院」での治療後、経過観察とサポートを行います
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