犬の歩き方がおかしい?後ろ足のけんけん・痛がらない時の見分け方

「最近、なんだか歩き方がおかしいな」と感じたとき、まずしていただきたいのは、その歩き方が”どう見えるか”を分けることです。

見え方が分かれば、疑われる病気の候補はある程度絞れます。たとえば数歩だけのケンケンは、膝蓋骨内方脱臼、いわゆる”パテラ”の早い時期のサインとして現れることがあります。急に片方の後ろ足を挙げて3本足で歩くなら、疑われる病気は別のものです。

そしてもう一つ。痛がっていないからといって、問題がないとは言い切れません。当院に来院されるパテラの患者様も、ケンケンや足を上げる症状があるからではなく、トリマーさんや獣医さんの指摘がきっかけというケースがほとんどです。

この記事では、犬の歩き方がおかしいときの5つの見え方ごとに、疑われることと痛がらないときの見方、受診の目安、動物病院での確かめ方についてご紹介します。

目次

1. 「歩き方がおかしい」は、見え方で候補が絞れる

歩き方がおかしいと感じたとき、その見え方によって、疑われる病気はある程度絞られます。

オーナー様からよく伺う見え方は、次の5つです。

  • 数歩だけケンケンして、すぐ普通に歩き出す
  • 片方の後ろ足を着かず、3本足で歩く
  • 立ち上がりや動き出しがゆっくりで、歩き方に左右差がある
  • 抱っこや段差の上り下りの瞬間に、キャンと鳴いた
  • 歩き方の異常はないが、トリマーさんや獣医さんに膝のゆるさを指摘された

当院でも問診では、いつから症状が出たのか、どんな状況で悪化するのか、普段の様子との違いを詳しくお伺いしています。

そして、見え方が何であっても、まずしていただきたいのが動画を撮ることです。歩き方の異常は一瞬で消えることがあり、診察室では再現しないことも少なくありません。

※足を全く着けない、鳴き続けている、という状態なら、この記事を読み進めるより先に動物病院さんへ連絡してください。

2. 数歩だけケンケンして、すぐ戻る

このタイプで、まず疑われるのはパテラです。膝のお皿の骨(膝蓋骨)が、太ももの骨の溝から外れてしまう病気です。

パテラには、外れやすさの程度によって、グレード1〜4という4段階の分け方があります。このうちグレード2は、「触ると外れるが、膝を曲げ伸ばしすると元の溝に戻る」状態です。外れたお皿が膝の曲げ伸ばしで溝に戻れば、その時点でケンケンは終わります。

外れて戻るまでの一連の動きが、オーナー様には数歩のケンケンや、後ろ足をピンと伸ばすような仕草として見えていると考えられます。後ろ足を伸ばす・スキップ歩きの仕草については、犬が後ろ足を伸ばす・スキップ歩きはパテラの初期サイン?で詳しくご紹介しています。

グレードをご自宅で確かめる方法と、その限界については犬のパテラ グレード1〜4の確かめ方をご覧ください。

痛がらないときの見方

このタイプは、本人がケロッとしていることがほとんどです。ただし、痛がらないから問題がない、とは言えません。

膝のお皿と溝の接触面は、”硝子軟骨”という非常になめらかな軟骨でできています。お皿が外れて硝子軟骨ではない場所を動くたびに、この軟骨が損傷して失われていく可能性があります。硝子軟骨は、一度失われると自然に再生することができません。

受診の目安

同じ動きが繰り返し出ている。あるいは、トリマーさんや獣医さんにパテラかも、と指摘されたことがある。この2つのどちらかに当たれば、一度診てもらう段階だと思います。

パテラの治療の内容については、膝蓋骨内方脱臼のページでご紹介しています。

3. 片方の後ろ足を着かない・3本足で歩く

このタイプは、はっきりした痛みがある状態と考えられます。年齢によって、疑われる病気が変わります。

中高齢(早ければ5歳くらい)の犬が、普段の何気ない動きをしたあとに急に足を挙げた場合、前十字靭帯の断裂が疑われます。前十字靭帯は膝の中にある靭帯で、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつないでいます。急に脚を痛がって挙げる、脚を引きずってかばう、という様子で来院されるケースが多いです。

成長期(6〜12ヶ月齢)の子で、脚を痛がる、地面に着くのを嫌がるという様子なら、レッグ・カルベ・ペルテス病の可能性があります。太ももの骨の先端(骨頭)が、感染を伴わずに壊れてしまう病気です。多くは10ヶ月齢前後に発症し、「最近脚を痛がる」「脚を地面に着かなくなった」という主訴で来院されます。

同じ月齢は、パテラの症状も出てくる時期です。パテラだと思ったらレッグ・カルベ・ペルテス病だった、あるいはその逆だったということもあり、見分けが必要です。

また、抱っこから降ろした瞬間や、わずかな段差をきっかけに後ろ足を着けなくなった場合は、股関節の脱臼が疑われることもあります。この見え方は第5章でご紹介します。

痛がらないときの見方

前十字靭帯が切れた場合、様子を見ているうちに、痛めた足を再び使い始めることがあります。これは靭帯が治ったわけではなく、切れたときの炎症が収まって、使い始めているだけの状態です。

靭帯が切れた膝は不安定で、半月板(膝の中で衝撃を吸収する組織)を傷めやすく、関節炎も進みやすくなります。その結果、徐々にまた脚を使わなくなります。「数日で戻ったから大丈夫」と判断せず、一度診てもらってください。

受診の目安

足を着かない状態が出たら、戻ったかどうかにかかわらず、早めに診てもらう段階です。原因(病気)ごとの整理は、犬が足を引きずる原因で詳しくご紹介しています。

4. 立ち上がりや動き出しがゆっくり・歩き方に左右差がある

このタイプは、ケンケンや足を挙げる分かりやすい動きがなくても、痛みや違和感を抱えている可能性があります。

前十字靭帯断裂の症状の一つに、「立ち上がりや動き出しの動作が緩慢」があります。急に足を挙げるという症状だけでなく、動き出しの鈍さとして現れることがある、ということです。

パテラの場合は、体重の重い子や中高齢の子になるにつれて、痛みや違和感につながり、活動性や運動能力が下がっていきます。若いころから膝がゆるかった子が、年齢とともに動きが鈍くなった、という見え方です。

歩き方の左右差や、重心が片側に寄っているような歩き方は、痛みのある足をかばっている可能性があります。立っているときの姿勢、筋肉のつきかた、重心移動、どの足をかばって歩いているか。これらは、動物病院の歩行検査で獣医師が見ているポイントそのものです。

痛がらないときの見方

このタイプは、「年のせいかな」と考えてしまいやすい見え方です。ただし、鳴いたり足を挙げたりしないから痛みがない、とは言い切れません。

立つのに時間がかかる、散歩に行きたがらない、といった変化が続いているなら、いつからそうなのかをメモしておいてください。以前に一度、足を挙げたりケンケンしたりした時期があったなら、その時期も伝えてください。

受診の目安

変化が続いている、または以前に足を挙げた時期があった。この場合は、年齢のせいと決めずに、一度診てもらう段階です。

5. 抱っこや段差でキャンと鳴いた

このタイプで疑われるのは、関節の脱臼や、背骨の病気(椎間板ヘルニア)です。

当院でも、次のような出来事がありました。検査を終えたワンちゃんを、看護師が抱っこから検査台にそっと下ろした瞬間に「キャン」と鳴き、左の後ろ足を地面に着けなくなりました。股関節の脱臼を疑ってレントゲンの準備をしていると、オーナー様から「そういえば最近、家でも時々、同じ方の足を痛がることがありました」というお話がありました。

幸い、関節はすぐに元の位置に戻り、大事には至りませんでした。

ワンちゃんの中には、もともと関節が緩かったり、骨格的に特定の部分に負担がかかりやすかったりする子がいます。こうした「その子自身の要因」が重なると、ごく日常的な何気ない動きが引き金となって、脱臼やヘルニアといったケガにつながることがあります。わずかな段差をきっかけに股関節を脱臼した、高齢の小型犬の例もあります。

犬種でいうと、トイ・プードルは肩や股関節の脱臼、柴犬とポメラニアンは股関節の脱臼、ダックスフンドは椎間板ヘルニアに注意が必要だと感じています。もちろん、これ以外の犬種でも起こる可能性は十分にあります。動物病院だけでなく、トリミングサロンやペットホテル、ご自宅でも起こりうることです。

痛がらないときの見方

一度鳴いただけで、その後は普通に歩いているように見える場合も多いです。ですが、「抱っこしたときにキャンと鳴いたことがある」「時々、片足を上げていることがある」という情報は、隠れたリスクに気づくための手がかりです。

次の受診のときに、些細なことでもかかりつけ医さんに伝えてください。その情報があるだけで、獣医師は診察や預かりの際に、より一層注意を払うことができます。

やらないでいただきたいこと

膝や股関節が外れたように見えても、ご自宅で自分ではめようとしないでください。関節には多くの靭帯や軟骨が集まっていて、無理な力をかけるとそれらを傷つけるおそれがあります。膝のお皿の場合の考え方は、犬の膝のお皿が外れた?自分ではめていい?でご紹介しています。

6. 痛がらないときの見方

ここまでの見え方に共通する答えは、「痛がらない=問題ない、ではない」ということです。理由は3つあります。

一つ目は、パテラのように、痛みがなくても膝の中で軟骨が失われていく病気があることです。当院に来院されるきっかけも、ケンケンや足を上げる症状があるからではなく、トリマーさんや獣医さんからの指摘がほとんどです。つまり、症状のないまま進んでいる子が多い病気だと思います。

二つ目は、前十字靭帯断裂のように、足を使い始めても治ったわけではない病気があることです。炎症が収まって一時的に足を使えているだけで、膝の中では半月板の損傷や関節炎が進みやすい状態が続きます。

三つ目は、症状が一瞬で消えることです。オーナー様が「あれ?」と思ったころには、もう普通に歩いていることが多く、診察室でも再現しないことがあります。

ただし、ご家庭での観察で「痛がっていない」と判断することは、実際には難しいです。オーナー様には「痛がっていないように見える」までで十分です。痛みがあるかどうかは、動物病院の触診(手で触って確かめる診察)で確認します。

7. 受診の目安と、診察前にしていただきたいこと

受診の目安を、見え方ごとに整理します。

  • 足を着かない・3本足で歩く:戻ったかどうかにかかわらず、早めに診てもらう
  • 数歩ケンケン、動き出しがゆっくり、左右差:繰り返し出ている、または指摘を受けたことがあれば診てもらう
  • キャンと鳴いた:足を着けなくなったら早めに。一度で戻った場合も、次の受診で伝える
  • 両足に出ている:パテラは両足に起こることも少なくないため、片足と同じように診てもらう

目安に当たる場合は、「まずは話だけ聞いてみようかな」という気持ちでも構いません。診察の精度が上がるので、受診前に次の3つをしていただけると助かります。

① 動画を撮る

症状は一瞬なので、診察室では再現しないこともあります。スマートフォンで、明るい場所で、歩いている全身が入るように(足だけのアップにしない)、横からを基本に正面や後ろからも撮っておいてください。走っているときにだけ出る場合は、その動画も撮っておいてください。

② いつ出るかをメモする

いつから出ているか、どんな状況で悪化するか、普段の様子との違いが、問診で伺う内容です。朝起きた直後だけか、散歩の後半だけか、興奮したときだけか。左右どちらの足か、週に何回くらいか。この程度のメモで十分です。

③ 過去に受けた指摘を伝える

トリミングやワクチンのときに、膝や関節について言われたことがあれば、そのまま伝えてください。症状が出ていない時期の指摘ほど、見落とされやすい情報です。

8. 動物病院ではどう確かめるか

当院では、問診のあとに視診・歩行検査・触診を行います(診療の流れ)。

歩行検査(歩く様子を見る検査)では、立っているときの姿勢、筋肉のつきかた、重心移動を評価します。どの足をかばって歩いているのか、どんな風に歩いているのかを確認し、症状の原因を探ります。第1章の見え方は、ここで獣医師が見ているものと重なります。

触診では、膝のお皿を実際に動かして外れ方と戻り方を確かめたり、痛みの有無を確認したりします。その後、必要に応じてレントゲン検査、血液検査、関節液検査(関節の中の液を調べる検査)を行い、状態と原因を絞り込みます。

レッグ・カルベ・ペルテス病のごく初期は、レントゲン検査でも分からないことがあります。その場合はCT検査を提案することがあります。神経の病気や骨折の詳細を把握するためにCT/MRI検査を提案する場合、当院では提携先での検査をご提案しています。

検査結果がそろった段階で、診断と治療計画をご説明します。治療内容や期間、費用、手術が必要な場合はそのリスクや成功率について、ここでお話しする流れです。

9. まとめ

  • 歩き方がおかしいときは、「数歩ケンケン」「3本足で歩く」「動き出しがゆっくり・左右差」「キャンと鳴いた」のどれに近いかで、疑われる病気の候補が絞れます
  • 数歩ケンケンしてすぐ戻る動きはパテラ、急に足を挙げて3本足で歩くのは前十字靭帯断裂(中高齢)やレッグ・カルベ・ペルテス病(成長期)が疑われます
  • 痛がらない=問題ない、ではありません。パテラは痛みがなくても軟骨が失われていく可能性があり、前十字靭帯は足を使い始めても治ったわけではありません
  • 受診前に、歩き方の動画(明るい場所・全身・横から)と、いつ出るかのメモを用意しておくと、診察の大きな助けになります

気になる歩き方が続いているなら、動画を1本撮って、かかりつけの動物病院さんに見せてください。

この記事の監修

赤木 浩之 / 犬と猫の整形外科病院 院長

獣医学博士
臨床10年以上

日本獣医麻酔外科学会 整形外科委員会 特別委員
日本獣医麻酔外科学会 東京地区委員
日本獣医生命科学大学獣医外科学教室所属大学院特別研究生

東京農工大学卒業後、日本獣医生命科学大学大学院で獣医学博士を取得。YPC東京動物整形外科病院にて数多くの手術を執刀。同院外科部長を経て、犬と猫の整形外科病院を開院。

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