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前十字靭帯断裂は、膝の中にある前十字靭帯(太ももの骨とすねの骨をつないでいる、非常に大きな靭帯)が切れてしまう病気です。靭帯が切れると、体重をかけるたびにすねの骨が前に滑ってしまいます。急に足を痛がって挙げる、足を引きずってかばうといった様子で気づかれることの多い病気です。
この前十字靭帯は、5〜6歳ごろから傷み始めます。加齢とともに発症のリスクは上がっていき、特に多いのは7〜8歳から10歳前後ですが、5〜6歳は、「見た目は元気でも体の中では少しずつ老化が進んでいる年ごろ」であるため、涼しくなった季節に散歩に行くことで発症してしまうケースが多くあります。
5〜6歳ごろから足をかばうような様子を何回か繰り返しているなら、一度かかりつけの動物病院さんに診てもらってください。この記事では、前十字靭帯断裂が起こりやすい年齢、見た目は元気な子で気づいてあげたいサイン、受診の目安をご紹介します。
1. 犬の前十字靭帯断裂とは
前十字靭帯は膝の中にある靭帯で、太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつないでいる、非常に大きな靭帯です。この靭帯には、大きく3つの役割があるとされています。
- 大腿骨に対して、脛骨が前に動くのを抑える
- 大腿骨に対して、脛骨が内側にねじれるのを抑える
- 大腿骨に対して、脛骨が伸びすぎるのを抑える
犬が歩くときに特に大切になるのが、1つ目の、脛骨が前に動くのを抑える役割です。
犬の脛骨は、大腿骨と接している部分が後ろに傾いています。そのため、この斜面に体重が加わると、脛骨そのものが前にスライドするような力が働きます。
この力を抑えているのが、前十字靭帯です。靭帯が切れてしまうと、足を地面に着いて体重をかけるたびに、脛骨が前に動いてしまいます。足を着くたびに、”膝カックン”のような膝崩れが起きている状態です。
脛骨と大腿骨の間には、半月板(衝撃を吸収したり、膝を安定させたりする組織)があります。脛骨が前に動くと、この半月板も挟まって、大きなダメージを受けてしまいます。
2. 犬の前十字靭帯は、5〜6歳から傷み始める
前十字靭帯断裂が起こりやすいのは、いわゆる中高齢の犬です。切れることが特に多いのは7〜8歳から10歳前後で、早い子では5〜6歳で切れることもあります。3〜4歳で切れている子もいるため、注意が必要です。6歳のトイプードルさんが、「1〜2週間前から後ろ足を挙げている」という様子で来院された例もありました。この子は、前十字靭帯が完全に切れていました。
なぜ犬の前十字靭帯は、年齢とともに切れやすくなるのでしょうか?
人の前十字靭帯断裂は、スポーツ外傷や転倒・スリップなどの外傷で起こるケースが大半を占めるとされています。いっぽう犬では、加齢や遺伝的な背景によって、靭帯が切れてくると言われています。原因はまだ十分に特定されていませんが、ケガによって切れるケースはやや稀です。そのため、大きなケガをしていなくても、普段の何気ない動きをしたときに急に症状が出ることがあります。
見た目は元気な”運動会のお父さん”
5〜6歳のワンちゃんの膝は、見た目はすごく若くて元気でも、体の中では少しずつ老化が始まっている年ごろです。
“運動会のお父さん”をイメージすると分かりやすいと思います。子どもの運動会で久しぶりに本気で走ったお父さんが、「痛てて」と体を痛めることがあります。ワンちゃんも同じで、暑い時期、あまり活動的ではなかったのに対し、涼しくなって気候のいい時期のお散歩ではしゃいだのがきっかけで、靭帯を痛めてしまう子が出てきます。
涼しくなる季節は、ワンちゃんの活動性が上がる
気温が20度前後の日が増えてくると、ワンちゃんにとっては外で運動しやすい季節です。寒すぎると活動性は落ちますが、涼しくなり始めた時期は、逆に活動性が上がります。5〜6歳の子で、足をかばう様子が出てくるのも、こうした時期です。
とはいえ、「運動を控える」というのは難しいところです。気をつけたいのは、足をかばうような様子が何回か繰り返し出ていないかどうかです。
3. 見た目は元気でも、気づいてあげたい前十字靭帯断裂のサイン
前十字靭帯断裂でよく見られるのは、次のような様子です。
- ケンケンする、急に後ろ足を痛がって挙げる
- 後ろ足を引きずって、かばうような歩き方をする
- 立ち上がりや動き出しの動作がゆっくりで、立ち上がりにくそうにしている
中高齢の犬では、普段の何気ない動きのあとに、急に足を挙げる様子で来院されるケースが多い印象です。
前十字靭帯が切れても、様子を見ているうちに、痛めた足を再び使い始めることがあります。これは靭帯が治ったわけではなく、切れたときの炎症が収まって、使い始めているだけの状態です。靭帯が切れた膝は不安定で、半月板も傷めやすくなります。
関節炎も進みやすくなり、結果的に、徐々にまた足を使わなくなっていきます。知らないうちに切れていることもあるため、”一度治まったから大丈夫”と決めずに見てあげてください。
また、片方の足で前十字靭帯断裂が分かった子は、反対側の足も切れやすいとされています。断裂の原因は解明されていないものの、犬種や年齢に偏りがあるため、反対側の膝も全く正常とは考えにくいからです。
4. 5〜6歳で「パテラ」が悪化した?と感じたとき
膝蓋骨内方脱臼、いわゆる”パテラ”は、膝のお皿の骨(膝蓋骨)が、太ももの骨の溝から外れてしまう病気です。パテラは成長とともにだんだん外れてくる病気で、1歳ぐらいまでに分かることがほとんどです。6〜7歳で新たにパテラになることは、あまりありません。
5〜6歳になって「昔からパテラがあったけど、最近ひどくなった」と来院された子は、パテラだけではないことが多いです。前十字靭帯が切れていた、切れかかっていたというケースも多いです。5〜6歳を超えてケンケンしている子では、”パテラだけではないかも”と考えて、診察で注意深く見ていきます。
5〜6歳ごろから、足をかばうような様子を何回か繰り返しているなら、一度診てもらう段階です。急に足を挙げた場合は、その後に足を使い始めたかどうかにかかわらず、早めに診てもらってください。靭帯の一部だけが切れている部分断裂は、必ず完全断裂に移行します。
半月板を傷めると、足の機能の回復にも大きく影響します。そのため、前十字靭帯断裂は早期診断・早期治療が大原則の病気です。
動物病院ではどう確かめるか
診察では、問診のあとに、立っているときの姿勢や筋肉のつきかた、どの足をかばって歩いているかを確認します(診療の流れ)。
前十字靭帯そのものは、レントゲンには映りません。
膝を手で触って確かめる触診と、レントゲン検査を合わせて疑っていく病気です。
受診の前に、歩き方の動画と、いつ出るかのメモを用意しておくと、診察がスムーズに進みます。
準備の詳しい内容は、検査や治療で愛犬を整形外科に連れていく際に気をつけたいことをご覧ください。
治療の内容や手術後の過ごし方、回復までの目安は、前十字靭帯断裂のページで詳しくご紹介しています。
5. まとめ
- 前十字靭帯は5〜6歳ごろから傷み始め、7〜8歳から10歳前後で切れることが多い靭帯です。早い子では5〜6歳で切れることもあります
- 犬の前十字靭帯断裂は加齢や遺伝的な背景で切れてくると言われ、普段の何気ない動きで急に症状が出ることがあります
- 足を使い始めても、靭帯が治ったわけではありません。昔からパテラがあった子が5〜6歳で足をかばうようになったときも、パテラだけではないことが多いです
- 5〜6歳ごろから足をかばうような様子を何回か繰り返しているなら、一度診てもらう段階です
5〜6歳の愛犬が足をかばうような仕草を繰り返していたら、歩き方の動画を1本撮って、かかりつけの動物病院さんに見せてください。
この記事の監修

赤木 浩之 / 犬と猫の整形外科病院 院長
獣医学博士
臨床10年以上
日本獣医麻酔外科学会 整形外科委員会 特別委員
日本獣医麻酔外科学会 東京地区委員
日本獣医生命科学大学獣医外科学教室所属大学院特別研究生
東京農工大学卒業後、日本獣医生命科学大学大学院で獣医学博士を取得。YPC東京動物整形外科病院にて数多くの手術を執刀。同院外科部長を経て、犬と猫の整形外科病院を開院。



